「農的暮らし」って何だろう?
最近のわたしの疑問。
それは、「農作物」を売り農業そのもので生計を立てる「百姓」ではなく、
あくまで「農的暮らし」というのがポイントだ。
例えば、本業の他に、庭で有機野菜やハーブを育てたり、
天然酵母のパンをつくったりという人たちがたくさんいる。
著名人では、歌手のUAさんが、
最近田舎に引っ越して、畑でハーブを育てていたり、
元宇宙飛行士でジャーナリストの秋山豊寛さんが、
ずいぶん前から、福島県で田んぼをつくり、自給自足の生活をしている。
そして、一般の会社員や学生の人たちも、
20代から30代を中心に、週末や夏休みを利用して
農業体験をする人が増え、
今、日本全国に、田植えや稲刈り、畑作業が学べる場もできている。
地味で静かだけど、確実に広まりつつある「農的暮らし」。
これは、「ロハス」という耳心地よいコトバの一歩先にある、
もしくは根底にあるものでは?そんな気がしている。
現在、わたしは、長野県安曇野にある、
シャロム・ヒュッテという「ロハス」な宿を取材している。
シャロムは、ヘブライ語で「平和」の意味、
ヒュッテは、「山小屋」のこと。
建物の外観は、まるでスイスアルプスに建つロッジのよう。
(行ったことないけど…)
オーナーは、元山男だという、笑顔がとても素敵なおじさん。
25年前、登山仲間とお金を出し合い、
3年がかりで、セルフビルド(手作り)で建てたヒュッテは、
いたるところに手作りのぬくもりが感じられる、あったかい空間だ。
私は、このシャロム・ヒュッテで、オーナーやスタッフ、お客さん、
さらにオーナーに会いに来る人たちと出会い、
「農的暮らし」が、シャロムという場所を拠点に、
みんなの夢としてむくむく育っていることを実感した。
驚いたのは、シャロムで体験スタッフとして無給で働く女性から聞いた、
WWOOF(ウーフ:Willing Workers On Organic Farmsの略)というコトバ。
直訳すると「有機農場で働きたい人たち」という意味で、
無料で食事や宿泊をさせてもらう代わりに、
農作業を手伝うというシステムだ。
イギリスで始まり、日本にもシャロムのほか、
受け入れ先が現在100ヶ所ほどある。
そんな働き方、暮らし方があったのか。
やっぱり、「農的暮らし」は着実に浸透しているのだ。
シャロム・ヒュッテの朝は早い。
スタッフや体験スタッフは4時~5時に起床し、
朝一番で「自然農」の畑に出かけるが、この「自然農」の畑がすごい。
「自然農」とは、土地を耕さず、肥料・農薬を用いず、
草や虫を敵としない生命の営みに任せた農法。
持続可能な暮らしを目指す、まさに「ロハス」な農法だ。
オーナーやスタッフが出荷を目的にせず、
自給用に作る畑には、ビニルハウスが一切なく、
キャベツの隣ににんじんが、とうもろこしの根元にカボチャが植えられ、
草の中から大根の芽が出ている。
整備した畑にはありえない、蝶たちが自由に飛び交う光景は、自然界そのもの、
野菜が混在する畑の収穫は、まるで宝探しのようだ。
スタッフたちは、この毎朝の畑の時間が、何より大切だと言う。
朝の涼しい時間に、露にぬれた野菜と対面し、
一日の始まりを実感するのはこの上ない喜びだ。
収穫するのは、お客さんの食事とまかないに使う分だけ、
採れたての野菜はサラダやパスタや味噌汁の具になる。
私の目には、スーパーの野菜より葉の緑が濃くて、元気いっぱいに見えた。
香りもいい。
食べたら、素材の旨みがしっかりあって、みずみずしくて美味しかった。
この畑の美しさと野菜の美味しさこそ、
シャロム・ヒュッテが25年前から「農的暮らし」を地道につづけてきた賜物だ。
次回は、宿という立場で宿泊客やスタッフに「農的暮らし」を伝えてきた、
オーナーの暮らしへのこだわりを伝えたい。
■■■筆者プロフィール■■■
73年 東京生まれ。
97年 制作会社入社
入社以来テレビ番組の制作に携わり
ADを数年経験した後、
最近ディレクターとして一本立ち。
■■■主な制作作品■■■
朝日放送 『街角の君達』D
NHK『世紀を刻んだ歌』、『課外授業』D
TBS『夢の扉』D ほか